第5章 年下わんこのビールとプリン
帰り道、ビールを買ったムラカミさんとプリンとコンタクトの保存液を買った私が横になって並ぶ。
静かに、黙々と歩く。特に話すことがない。気付けばもうマンションの目の前。
突如、沈黙を破ったのはムラカミさんだった。
「俺はアズサのこと、女子だと思うけどな」
ぽそりと、独り言みたい。ムラカミさんはエントランスのオートロックを開け、エスコートするかのように一歩下がり私を先に入れた。
「気付いてるでしょ? 俺、もうビール買ってたんだよね」
ムラカミさんは少し俯いて喋る。私はそんな気がしたけど、気付いたなんて言えずに黙ってた。
「俺の言いたいこと、分かる?」
ちょっと、察したけど、自意識過剰かもしれないから、でも恥ずかしくなって私まで俯いてしまう。
タイミング、良くか悪くか。丁度エレベーターが降りてきた。
気まずさでいっぱいのエレベーターの中。
「俺にとっては、ちゃんと女の子だから。そう見てる。こんな夜中にひとりで外行くって知ったらじっとしてられないでしょ」
いつもよりワントーン低い声で、そう言ったものだからちょっと、ドキドキした。
「アズサにとって俺は、ただの弟かなんか、なんだろうけど。俺は違うから、これは宣戦布告です」
そう言い切ったところでエレベーターが私たちの部屋がある階に着いた。
私、今どうしようもなく顔が熱い。年甲斐もなく赤くなってるんだろうな、と思ったらムラカミさんに見せる顔なくてドアが開いた瞬間に飛び出した。
ムラカミさんの走ってくる音が聞こえる。慌てて鍵を探し、玄関に鍵を差したところで腕を掴まれた。
「今日は帰すけど、今度はちゃんと、俺、みてよ。」
頷くと腕が解かれた。腕まで熱くなってる。
「じゃあ、おやすみ」
何か、動けなくなってムラカミさんが自分の部屋に入ってその後、鍵をかける音まで、そのまま立ち尽くして聞いた。
少し、その場にいたけれど、そんなところにいたって仕方ないから、鍵をまわす。
ガチャリ、
玄関ドアと一緒に、私の何かも開いたような気がした。
もう、こんな気分じゃプリンなんか、食べれそうにない。
私は、その「今度」が来るまでそうなのだろうか。それとも「今度」が来てもそれは続くのだろうか。
-end-