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言われてみれば、単純で。

第6章 言われてみれば、単純で。


「丹羽先輩。ぼーっとしてないで。帰りますよ」

キョーちゃんは俺を待つ様子なんてなく、先に進んでいく。
俺は急いでジャケットを羽織り、鞄の中にある財布から壱万円札を取り出しそれを握り締めた。

「また、待ってるから。ふたりでおいで」

「キョーちゃんに、嫌われてなかったら」

店主は俺にふたりで、そう言ったが、そんな機会あるのだろうか。
今の状態の彼女を見ていると、帰ると俺を誘ったのが不思議なくらい避けられている。

店主は笑って手を振り、俺を送り出した。
申し訳ないけれど笑い返す余裕どころか、挨拶を口にする余裕も無い。
軽く会釈だけして店を出た。

キョーちゃんはいつもより、歩くのが早かった。
駆け足で彼女の隣まで行く。


「キョーちゃん、これ、俺の分」

「今度は私が払うって言いましたよね。それにこれで貸し借りゼロです」

クシャクシャになってしまったお札は行き場を失った。
仕方なくジャケットの内ポケットに押し込んだ。

貸し借りゼロ。
この1年以上の付き合いをゼロにしましょう、そういう意味だろうか。


彼女が義理堅いことは前々から気付いていた。
この日だけのために、1年以上も俺と一緒に居てくれたのだろうか。


こんな事なら、キョーちゃんに会わなければ良かった。
あの日、早く帰らなければ良かった。
こうなるのなら、懐かしい記憶のままで良かった。
そうすればいつか、忘れてしまうか、諦めてしまうか、出来た気がする。

俺をこんなにも引っ掻き回しておいて、キョーちゃんは何処かへ行ってしまうのだろう。

こんなことなら会わなければ良かった。



キョーちゃんはそこに居るはずなのに。
手を伸ばせば触れることの出来る距離なのに、すごく遠く感じる。

横に並ぶ。
当たり前だった、それさえも出来ない気分だ。
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