第6章 言われてみれば、単純で。
随分と長い間の沈黙は俺の住むマンションの前まで続いた。
それを破ったのはキョーちゃん。
「丹羽先輩。明日の予定入ってないですよね。うちに来て下さい」
そりゃあ、入ってないよ。
此処1年以上、土曜日にはキョーちゃん以外の予定を入れてないのだから。
この1ヶ月間だってずっと空けてた。
「うん、わかった」
何となく、話は俺の思ってる、悪い方向に転びそうで返事が重い。
キョーちゃんの背中、というよりも足元だな。
それを見ながら後ろを付いて歩く。
見慣れたキョーちゃんの住むマンションの廊下も、この風景も、今日で最後になるのかな。
キョーちゃんの開けた玄関の鍵の、ガシャン、という音が廊下に響いた。
聞きなれたその音が、すごく嫌な音に感じる。
「どうぞ」
彼女がドアを押えて俺を先に入れる。
いつものことだった。最後になる、のかな。
足が重い。
足が重いって、こういうことなんだって実感。
本当に重く感じるんだ。
1ヶ月ぶりのキョーちゃんの部屋はいつもと違っていた。
普段は綺麗に片付けられたはずのこの部屋。
申し上げにくいのだが、それの面影はない。
俺がいつも座っていたソファには脱ぎ散らかしたシャツの山。
床には本が散乱している。
「ごめんなさい。少し散らかってて」
「うん。申し訳ないけど、煙草、いいかな?」
「いいですよ」
キッチンの奥に入ると、空になったビール缶がちょっとしたタワーになっていた。
ジャケットを脱いだキョーちゃんがキッチンにやってきた。