第8章 別稿 私の気持ちは、難解で。
「あ、うん。キョーちゃん、じゃあね」
「はい。丹羽先輩、卒業おめでとう御座いました。勉強頑張ってくださいね」
結局、最後まで同じことしか言いませんでした。それが一番適切だと思ったからです。
「キョーちゃん、ホントそればっかな」
「まあ、それ以外に先輩に言えることないですから」
実際、その通りでした。
「そっか。じゃあ俺頑張るわ」
先輩は笑って戻っていきました。私はその背中を少し見てから、視線を落とします。
封筒を開けると、中にボタンが入っていました。
特に意味はありません。ただの制服の一部です。
持って帰る必要があるのか少し考えましたが、捨てる場所もないので、そのまま鞄に入れました。
帰宅したら、どこかに置いておけばいいでしょう。引き出しでも、本棚でも、どこでも構いません。そうして時間が経てば、きっとそのままになると思います。
それで特に困ることもありません。
このあと彼に会うことは、多分ないのだと思います。そういうものなのだと理解しています。特に不便もありませんし、生活に支障もありません。
ただ、水曜日の図書室に行く理由を一つ失っただけです。
それだけのことです。
鞄の中に入れた封筒が、歩くたびにかすかに音を立てました。普段であれば気にも留めない程度の小さな音です。それでも、何故かその音だけがやけに耳に残りました。気のせいだと思います。
多分、今日は少しだけ周りが静かすぎるからです。
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