第6章 言われてみれば、単純で。
「お兄ちゃん! おかわり、一緒の! 先輩の分も。その後チェックお願いします」
「おー、すぐ持ってく」
彼女が大きな声で厨房に向かってそう言うと店主の返事がすぐに聞こえた。
店主がキョーちゃんを妹と呼ぶように、キョーちゃんは店主の事をお兄ちゃんと呼んでいた。
初めて知ったけど、今はどうでもよかった。
キョーちゃんは2本目の煙草に火をつける。
俺も同様に煙草に火をつけた。
彼女はまた、自分の指先を見ている。
俺は、1秒でも早く店主か店員がここに来てこの居心地の悪い空気を壊してくれる事だけを祈っていた。
「おまたせ。藤崎ちゃん、先輩困らせちゃ駄目でしょ?」
「お兄ちゃんがお節介するから」
「はいはい。邪魔者は消えますね」
店主は当たり障りのない事だけ言ってすぐさままた奥に消える。
期待した俺が馬鹿だったよ。
また、無言の空間が出来上がる。
俺は目の前に置かれた氷の入ったウイスキーを一気に飲んだ。
隣を見るとキョーちゃんもグラス一杯のワインを一気に飲み干している。
俺が煙草に火をつけると彼女は伝票を持って厨房へ向かった。
普通客が入る場所ではないだろうが、彼女は特別なのだろう。
その様子を見ていると、店主が出てきた。
今彼女の相手をしているのは店員なのだろう。
「いやー。藤崎ちゃんがごめんね。あのコ、怒っちゃったみたい」
「いえ、怒らせたのは俺ですから」
「そうじゃないんだけど、まあ、いいや。藤崎ちゃんのこと、宜しく頼むよ」
「よろしくと言われましても、俺は何も出来ないんで」
「君しかできないんだよ」
店主は意味深なことを言う。
この状況で俺しか出来ないことなんてないだろう。
キョーちゃんが厨房から出てくるとそのまま外へ向かっていった。
それを見ていると彼女が振り向く。