第2章 君との出会いは、偶然で。
「ホントに本人ですか?」
「なんだよ。俺が丹羽イツキ、って言ってるのに」
疑いの目。なんか、それにイラっとして彼女の顔に煙草の息を吹きかけた。
彼女は少し涙目になってこっちを見上げてる。
伏せ目勝ちな彼女の睫毛は当時から思っていたけれどもラクダみたいにバサバサしてて重くないのかと心配になるくらい。
そこらへんの女みたいに塗りたくられたものではなく天然に出来上がっているので一本一本が細く見え、量が多いのが分かる。
瞬きしたら音がするんじゃないかって思っちゃうよね。
上から見下ろすとそれをより一層感じた。
その睫毛の隙間から彼女が俺を見る。
「ドイツだったら煙かけるのは傷害罪です」
「相変わらず、博識だね。キョーちゃんは」
そう言いながらも別に怒っているわけではなさそう。
2本目の煙草に火をつける彼女はまだ俺に付き合ってくれるようだ。
彼女は俺から目を離し、灰皿に灰を落とす。
「そう言うことする人でしたっけ?」
「うーん。しなかったかもね」
「あの頃はあんなに可愛かったのに」
可愛かったとかいわれても嬉しくない。
俺の肩にも届かない身長の、小さな彼女は下から睨みつけてくる。
その顔を覗き込んだ瞬間、俺の顔が紫煙に包まれた。
自分のとは違う少し甘い香りがしたのは彼女の煙草の銘柄か、それとも彼女のものだからなのかは分からない。
「仕返しです」
「キョーちゃん、これは傷害罪だよ」
「此処は日本ですよ、丹羽先輩」
あの時のままの呼び方で俺を呼んだ。
呼ばれたかった名前。呼ばれたかった声で。
俺の知ってた声より、少し低めの落ち着いた感じ。女性も声変わりするんだな。
声変わりって言うより、成長から来る落ち着きの影響か。
当時も落ち着いているとは言え、子供の中では落ち着いている方ってだけ。
今は、本当に落ち着いてるって、こういう人のこというんだろうな、ってやつ。
これでさようならは勿体無い気がした。
勿体無いって言葉じゃ、なんだか安っぽいけど。