第8章 別稿 私の気持ちは、難解で。
「そうなの?」
「はい」
短く答えました。長く説明することは出来ませんでした。
どうして楽しかったのかと聞かれても、上手く答えられる自信がなかったからです。
静かに過ごしていた時間が、少しだけ変わったこと。話す機会が増えたこと言葉にする回数が増えたこと。
それらを一つ一つ説明するのは、少し面倒でした。それに、そこまで正確に伝える必要もないと思いました。
「あとは…頑張って勉強してください」
最後は、いつも言っていることを書きました。他に、適切な言葉が思いつかなかったからです。
「りょーかい」
軽い返事でした。本当にやるかどうかは分かりません。でも、それでいいと思いました。
紙に視線を落とします。ゆっくりと書いたつもりでしたが、やはり字はあまり綺麗ではありません。少しだけ、整えようと意識して書いていましたが、途中からそれも曖昧になっていました。
見せるための字、というのはあまり得意ではありません。
「もう卒業したら会えないと思いますが」
書き終える前に、口に出しました。書いてしまうと、それが確定してしまう気がしたからです。
「会えないの?」
問い返されました。少しだけ間を置いてから、言葉を選びます。
「そうですね。高校違うとこいくと思いますし 家も遠いですし」
理由を並べました。どれも一般的で、納得しやすいものです。
それ以上のことは、特に考えていませんでした。
「そっか。卒業式までまだ時間あるけどね」
そう言いました。その言葉は、私に向けたものというより、自分に向けたもののように聞こえました。
どうしてそう感じたのかは、よく分かりません。ただ、少しだけ違和感がありました。