第8章 別稿 私の気持ちは、難解で。
「何の色紙?」
「委員会の先輩のご卒業のお祝いです」
説明しながら、少しだけ手を止めました。卒業、という言葉はここ最近よく耳にします。それは当然のことなのですが、その度に少しだけ現実味が増していく気がしました。いつかは忘れてしまいましたが、何故帰らないか聞いたことがありました。丹羽先輩は帰っても暇だからと仰っていました。友人が多い丹羽先輩なのできっと受験勉強なんかよりも残された彼らとの時間を楽しんでいるのでしょう。
「俺も色紙欲しい」
軽い調子で言われたその言葉に、少しだけ考えます。欲しいと言われて、すぐに用意できるものではありません。
「丹羽先輩は部活の後輩とかから貰ったんじゃないですか?」
一般的にはそういうものだと思います。部活動に所属していれば、後輩から寄せ書きをもらうこともあるでしょう。だから、私がわざわざ書く必要はないはずです。
「キョーちゃんから欲しい」
即答でした。理由は分かりませんでした。どうして私なのか、考えてもよく分かりません。ただ、断る理由も思いつきませんでした。
「色紙一枚を私一人が埋めるんですか?」
「そう」
一人で一枚の色紙を埋めるというのは、現実的ではありません。図書委員会のお仕事のようにお勧めの本に対する紹介文を書くことでもなく、学級日誌に1日に合った特記すべきことを書くわけではないのです。考えてはみるものの、書くことが何も思いつかないのです。