第8章 別稿 私の気持ちは、難解で。
受験の時期に入り、三年生は午前授業になりました。校舎に残る人の数も減り、放課後の空気は以前よりも静かになっています。廊下を歩く足音もまばらで、どこか時間の流れが遅くなったように感じられました。
それでも水曜日だけは、私は図書室に残ります。当番があるから、という理由もありますが、それだけではないような気もしていました。理由を考えようとすると、上手く言葉に出来ないので、深く考えないようにしています。
「キョーちゃん、なにしてんの?」
聞き慣れた声でした。振り返らなくても誰か分かります。この時間に、ここに来る人は限られているからです。丹羽先輩は授業が終わったにも関わらず何故か此処に顔を出します。
「色紙書いてます」
机の上には、委員会用の色紙が広げられています。卒業する先輩方への寄せ書きです。書く内容は既に大体決めてあり、あとはそれをどう配置するかを考えているところでした。沢山並ぶペンの中から好きな色を決め、疎らに空いている空白の何処に自分の文字を綴るか、出来れば目立たないところで目立たない色。しかし目立たなさすぎてもそれが逆説的に目立ってしまうこともあるのです。