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言われてみれば、単純で。

第8章 別稿 私の気持ちは、難解で。


「もう今更進路変えれないよなって」

 進路は、そう簡単に変えられるものではありません。願書や試験日程、学力や通学距離、様々な条件が絡み合って決まるものです。思いつきで変えるようなものではないという認識は、私にもありました。
 
「そうでしょうね。
 学力的には向こうのほうがいいし、先輩には似合ってると思います」

 似合っている、という言葉に明確な根拠はありません。ただ、なんとなくそう思いました。丹羽先輩は人と関わることを厭わないので、少し遠くても新しい環境でも問題なくやっていけるのだろうとただそう思っただけなのです。私にはあまり出来ないことです。
 
「ありがと」

 素直に礼を言う丹羽先輩は、褒められたことに対して過剰に照れることも、否定することもなく、そのまま受け取りました。それが出来る人は、少しだけ珍しい気がします。
 
「先輩は私いないところ寂しいですか」

 自分で口に出してから、少しだけ不思議に思いました。どうしてそんなことを聞いたのか、明確な理由はありません。ただ、先程から「卒業」や「会えなくなる」といった言葉が続いていたから、その延長で出てきただけの問いだと思います。深い意味は、ないはずです。
 
「そうだね、寂しいね」

 あっさりと肯定されました。少しだけ意外でした。冗談めかして濁すか、話を逸らすと思っていたからです。
 寂しい、と。
 その言葉は、私が先程曖昧にしたものと同じでした。
 
「じゃあ、その寂しい時間を勉強に費やしてください」

 そのまま受け取るのは、何となく落ち着きませんでした。だから、いつも通りの形に戻します。現実的で、役に立ちそうで、そして少しだけ距離を取れる言葉。そういう言葉のほうが、扱いやすいのです。

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