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言われてみれば、単純で。

第8章 別稿 私の気持ちは、難解で。


 
 
「俺さ、高校行ったらさ、もうここ来れないじゃん」
「そうですね」
「キョーちゃんとも、まあ普通に考えたら会わないよね」

普通に考えれば、そうなのだと思います。学校という共通点がなくなれば、接点も自然と消えていくのでしょう。それは、とても自然なことです。

「そうですね」

もう一度、同じ言葉を返しました。

丹羽先輩は少しだけ黙りました。
珍しいことだと思いました。この人は、基本的に沈黙を嫌う人です。
だから、言葉が止まるのは少しだけ違和感がありました。
 
「キョーちゃんはさ、寂しくないの?」

先程と同じ問。けれど、今度は少しだけ声音が違いました。
先程よりも、少しだけ静かで、少しだけ、答えを求めているように聞こえました。
私は少しだけ考えました。
窓の外の雪を見て、机の上の本に視線を落として、それから、もう一度丹羽先輩の方を見ました。
 
「分かりません」

それが一番近い答えでした。

「分かんないの?」
「はい。まだ、実感がないので」

本当は、少しだけ分かっていました。でも、それを今ここで言葉にしてしまうと、何かが終わってしまうような気がしたのです。

 
「俺多分、あの高校いくよ。来年来る?」

 高校の名前は聞いたことがあります。少し遠くて電車を使わないと通えない場所にある学校です。校則が緩いだとか部活動が盛んだとか、そういった話も耳にしたことがありますが、私にはあまり関係のない話でした。通う予定も関わる予定もない場所のことを詳しく知ろうと思ったことはありません。
 ただ、丹羽先輩がそこに行くのだとしたらその場所は私にとって全く無関係な場所ではなくなるのだと思いました。それでも、特別な感情が湧いたわけではありません。
 
「私、近いとこがいいんで多分そんな遠くには行きません」

 通学時間が長いのは好きではありません。朝の静かな時間が削られるのも、帰りの余白がなくなるのも、あまり好ましくないからです。出来るだけ生活のリズムを崩さない場所を選びたいと考えています。それに、遠くに行く理由も特にありません。
 
「そうなの?」
「どうかしましたか」

 丹羽先輩の問いの意図を測りかねました。私がどこの高校に行くかという話は、今この場で深く掘り下げる必要のあるものではないと思ったからです。

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