第8章 別稿 私の気持ちは、難解で。
ある水曜日、丹羽先輩は私にお勧めの本を訊ねてきました。
丹羽先輩はよく分からないのですが「愛が足りない」というのが口癖でした。
同じ学年の人たちよりも背が低くて、子供の私たちのなかでも幼い顔をしていたのでみんなからよくからかわれていました。
周りの人たちは丹羽先輩を大事に思っているからそうやって居るのだと思うのですが丹羽先輩はそう思ってなかったようです。
「俺はみんなから愛されていないんだ」とか「俺だって愛されたい」だとか、存分に愛を与えられてるのにそう感じない丹羽先輩は貪欲だと思いました。
私はお勧めの本に1年生の時に読書感想文で書いた本を手渡しました。
この図書室にはない私物の本です。私はいつもお気に入りの本を一冊、鞄に忍ばせておくのです。小さな文庫本一冊はあってもなくても同じような重量ですが私の中ではとても重要な事なのです。お守りのようなもの。
丹羽先輩はその日、その本を私の隣で静かに読んでいました。
少し唸りながら、時にページを戻して読み返しながら。
私の好きな本を他の人が読んでくれるのは嬉しかったのですが、丹羽先輩は余り気に入らなかったようでした。