第4章 夏休み開けて
霧が晴れる頃に 92話 仁の策
「なにやってんだ!全員でかかれ!」
あっという間に倒した慶に1人では無理だと判断したリーダー格の女が掛け声をかけると全員我に返り、それぞれ慶に拳を振り上げながら向かって来る。
それを見て慶はニヤリと笑い、次の行動に移る。
「ほれ、ここまでおいで!」
1番慶に近かった男の拳をギリギリのところで身をかわした後、顎に一発かますとまた安い挑発…というか鬼ごっこの様な事を言って体育倉庫から駆け出す。
「追えっ!!」
誰かが言った掛け声に反応して不良も女子3人も慶を追う。
「いっ、行っちゃった」
取り残された林が呆気に取られた声を出した。
「私達はどうするのよ…」
床に貼付けられたままの楓が途方に暮れた声を出す。
「俺が助ける」
突如聞こえた声の主はなにやらポケットから取りだしながらに倉庫の中に入って来る。
「仁っ!?」
「霧ケ谷君!?」
驚きの声を出す林と楓に仁はヒラヒラと手をふりながら近付いて来る。
「おう霙、楓、無事か?」
「え、えっと…」
「ん、んん~」
微妙な返事を返す2人に仁は眉尻を少しだけ下げながら溜め息をつく。
「…ゴメンな」
ポケットから取り出したカッターを使い、謝りながらまず林の手の拘束を解く。
「う、ううん…?大丈夫だよ?」
「それより、どうしてこんなタイミングよく仁が出てくるの?」
気を使わせまいと話題を変える楓に気付きつつもこれまでの過程を説明する。
整理すると次の様になる。
別々の方向に散った後、仁は林の居場所の候補の1つ、屋上を見た後、楓の向かった方向を思いだし体育館に向かう途中、技術室にあったカッターを持ち出す。
向かう道のりでとにかく勘で駆けずり回っていた慶と会い、体育倉庫を共に目指した。
入口手前に到着した時、中から人が倒される様な音を聞きながら仁は慶に1人倒したら挑発して外に連れ出す策を与えた。
出て行った慶を含めた8人をやり過ごしてから入ってきて今に至る。ということらしい。