第4章 夏休み開けて
霧が晴れる頃に 79話 楓の話
「わっ!真っ暗~、まだ6時過ぎなのに!」
「まぁもう9月だからな、こんなもんだろ」
打ち上げをお開きにし、生徒たちはまばらに帰っていった。
林と慶もそんな季節の変わりの会話をして仁と楓に挨拶して自転車で帰っていく。
「…じゃ、行くか」
「うん」
打ち上げがあることなど予測していなかった為、すっかり遅くなってしまったが、昨日の晩のメールで、話しがあるという楓の話を聞くべく2人で並んで仁の家に行く。
「っだいま、楓来たから」
「お邪魔します…」
すでに帰っている母にそれを伝え、2階の仁の部屋に入る。
仁のベッドに2人並んで腰を下ろすが、なぜか今日は言葉が出てこない。
「…話って?」
振り絞ってやっと出た言葉で楓に尋ねると楓は俯き、押し黙ってしまう。
………
再び沈黙が続きやっとの思いで楓は口を開いた。
「仁…あのね、好きな人が出来たの」
楓の口から出た言葉は、仁の想像を遥かに超えるものであった。
「お、おぉぉ…よかったな…卒業式の時男子嫌いとか言ってた癖に」
仁がなんとか言葉を繋ぐと楓は顔を真っ赤にさせて小さく、小さく言う。
「その人は………特別…なの…」
ズキッ
何故だか、頭の片隅で痛みが起こった気がして、頭をコンコンと叩くが痛みはない。
楓のその切なげな、しかし、嬉しそうな表情を向けられている男に対して腹の奥から湧き出る黒い、ドロドロとした物質が仁の思考を鈍らせる。
(なんだよ…)
なんとなく、意味もわからず胸のうちで呟いたその言葉を知らず知らずのうちに言葉にしていたらしく楓が目を見開き仁を見つめる。
しまった。そう思ってから仁はなにかいわねばと口を開く。
「あー、まぁ、よかったな、で誰だ?その男」
なんとか開いた口からはそんな言葉しか出て来ない。
(もっと素直に祝福できればいいのにな…)
満足に祝福も出来ない自分に対し心の中で舌打ちを打った仁に楓は愛しげに言う。
「優しくて、不器用で、他人の事なんて興味ないなんて顔してるけど実はすっごく気を使っている人…あと、とってもかっこいいよ?」
フフッと微笑み笑う楓に、仁は感じた事の無かった感情に包まれた…