第4章 夏休み開けて
霧が晴れる頃に 75話 全員リレー
8走目を無事受け取った順位で9走目の豪に渡した仁は少々息を切らせながら列に座る。
「お疲れ様!速かったよ!」
6走目で2位まで追い上げた林が仁に声をかける。
「おう、霙速いのな、2人も抜いたな」
仁に褒められ「ありがとう!」と素直に喜ぶ林は幼子のようで、中学生とは思えないあどけないかわいらしさがある。
(まぁ、背が低いのもあるんだけど…)
口にすれば少し拗ねるであろう言葉は腹にしまい込み、1組の青色のハチマキを付けて走っているクラスの男子を見る。
「あ、抜かされた」
その男子は運動は余り得意でなさそうな明らかにひ弱な男子で手を必死に振り回しながら走るも2人に抜かされ、現在4位。
「次は誰?」
林が話すより先に次の走者を探してた仁は見慣れた髪の長い女子を見つける。
「楓」
楓は運動が得意という訳でも苦手という訳でもない。いたって普通だ。
3位や2位との差は5m程、特別速い人ならともかく人並みな楓が抜かすのは厳しいだろう。
仁が思考を懲らしている間に、いつのまにか楓にバトンが渡る。
予想通り楓は可もなく不可もない走りをしたが予想外なのは、他のクラスの走者だった。
1位だったクラスはバトンを落とし、2位だったクラスは走者が転び、3位だったクラスは足がつったのか、なんとかバトンを渡すことに精一杯でまともな走りは出来ていなかった。
よって楓が3人抜かし、1組青組は1位に踊り出る。
「楓、ラッキーガールだな」
呆れたように笑った後、仁は再び状況を見る。
今は16走目、ここからはやや遅い人達が続き、最後の最後で慶が抜く…というのがクラスで話し合って決めた作戦だった。
1位…2位…4位…3位…4位…
目まぐるしく順位は変わり慶が待つアンカー手前で3位、差は2m先に2位、更に先に1位がいる。
「よこせっ!なんとかしてやる
!」
珍しく男らしさの感じる強めの口調を出す慶の手にバトンが渡る。
「っし!」
そういって慶はグングン加速する。
1人はすぐに抜いて2位になり、2人目に詰めるがさすがアンカー他のクラスも速い。
おおおおおおお!!!
1位と2位のデッドヒートに会場が沸く。
パンッ!
ゴールのピストルが鳴りひびく。
「どっちだ!?」
全く同じ位置に見えたのだが…先生や係の生徒が輪を作って話し合っているのを息を飲んで見守った…
