
第3章 夏休み後半

霧が晴れる頃に 66話 水泳大会
開始の笛がなり第1レーススタート
「うぉぉぉおお!」
叫びながらものすごいスピードで泳いで行く慶は現在1位。
(口に水入らんのか…?)
仁が口に出さず心の内で慶の全力のクロールに感想を思う。
「慶ちゃん!!」
手を大きく振りながら応援をする林は、その小柄な体から家族連れの子供と間違われるだろう。
「ファイトぉおお!!」
流星がマイクを口に付くんじゃないかってほど口に近付け叫ぶ。
「あ、折り返し」
楓が呟く。折り返しまで泳ぎ、残り25m。
今の所、慶がトップではあるが2位との差はわずかなものであり、0.5秒差もないだろう。
「あっ!やばい!」
落ち着きなく飛び跳ねていた林が言う。慶が抜かれかけているのだ、0.5秒以下の差はなくなった。
「トップ争いが激しいっ!あと8mー!!」
流星の響き渡る声を聞き流し、仁が少し緊張した声を漏らす。
「…あと5m…なんとかしろよ…」
仁がどうせなら勝てとの思いでその言葉を呟いた時、慶の体が水中から高く飛び出る。
水を掻き分け進む慶は泳ぎ方を変えたのだ。
クロールからバタフライへ。
自由形ならクロールが一般的だしこれまで慶も45mはクロールで泳いでいた。
しかしクロールでついた勢いを殺さずバタフライに利用した慶はその高身長を活かす様に飛距離を伸ばす(本来飛ぶものではないが)
慶の手がプールの壁に届く………
「ゴーーール!!!」
ギリギリで変えた泳法が幸を呼び、なんとか第1レースでは1位を取れた慶。しかしこれはタイムを競う大会。
「…あとは祈るばかりだな…」
ふぅ。と緊迫感が解け、一気に気が抜けた仁はいつのまにか握りしめ、こぶしを作っていた手をほどいた。
「でもさすがね、雨宮君、なんとか勝ったじゃない、あんなゴツい人がいるのに」
楓がやや感心したのか、視線を慶に向けたまま言う。
どうやら慶とトップ争いをしていたのは成人している男性のようで、不自然なほど筋肉がついていた。
「慶ちゃん、なんかムキムキな人と話してる」
林が指を指した先には慶と、その不自然な筋肉の男が握手をしていた。
「え…仲良くなってる…どこでそうなった…」
仁には理解できないのだが、慶が嬉しげに笑うのを見て思う。
「…筋肉バカ同士波長があうんだろ…」
そんな失礼な事を言われてるのも知らず観客へ向けガッツポーズを掲げる慶だった。
