第3章 夏休み後半
霧が晴れる頃に 62話 ウォータースライダー
「まだかなまだかな」
音符が飛び出そうなほどウキウキしている林は隣にいる仁に満面の笑みで聞いてくる。
「あぁ、もうすぐ、あと2、3分くらいだよ」
林の笑顔の影響で自然と朗らかな表情で返答をすると林はやはり嬉しそうにコクんと頷く。
後ろにいる楓からも少し楽しみにしているような空気があり、慶も同じだった。
「あれ?これ浮輪型?」
やっと前の人がいなくなり次の順番になったのでスライダーの滑り口が見えたのだが、どうやらエレベーターのようなもので上がって来る2人乗りの浮輪に乗るらしい。
「はーい、次の方どうぞー」
係員に言われて待たせちゃ悪いとたまたま前の方にいた林と仁が小走りで
(楓も大分慶に慣れてきたし平気だろう)
と、一瞬で判断した仁は浮輪の前に乗り、すぐ林も後ろに乗る。
「はーいじゃあ行ってらっしゃい」
係員に言われて出発するとあっと言う間に2人を乗せた浮輪はスピードになる。
「きゃぁぁああああ!!」
元気に仁の後ろで叫ぶ林は楽しそうだ。
右、左、右、右。
そのうち暗いトンネルに入る。
「うわぁ!」
ガバッ!
いきなり後ろから抱き着いてきた林は素でビックリしたようだ
「ちょっ、霙っ…!」
抱き着いて来るのは割りといつものことだし、そういえば夏祭りで仁が抱きしめた事もあったことから今更林とのボディタッチに抵抗はあまりないが今はお互い水着、素肌と素肌が触れ合い、なにより背中に感じる円状の感触が仁の思考を鈍らせた。
(っ…早く終われ!)
仁が願い始めた頃にトンネルを抜けて出口が見える。
バッシャァァァアア
最後の大きな急坂を落ちた後水にぶつかりスライダーが終わる。
「たのしかったぁ!」
「ふぅ…」
水の中をジャブジャブ歩いて後から来るはずの慶と楓を待った。