第1章 入学
霧が晴れる頃に 16話 コーヒーが美味しくなるまで ピアノ
ちょうどコーヒーが入る頃に仁の大きすぎる仁の服を着て、出てきた楓に
「ほれ」
と言って砂糖とミルクと一緒に煎れたてのコーヒーを渡すと
「ありがとう…」
と柔らかな声でお礼を言って、腰まで届く長い髪をタオルでうまく服を濡らさぬように肩に掛けてピアノ用と勉強用の2つしかない椅子の片方に腰を掛けて砂糖もミルクも入れずにコーヒーを飲みはじめ
「温かい…」と、思わず漏れたような自然な楓の声に少々胸が大きく鼓動を打つのを感じながらも
「俺意外でブラックで飲む人初めて見た」
言ってみた。
そもそも仁の家族にはコーヒーを飲む人が他にはいなかった。
「私は人にコーヒーを出す小学生初めてみたよ」
軽くそう返され仁は「はははっ」と笑うと自分が煎れたコーヒーの味はどうか…とゆっくり飲んでみた。
(まずかないけど…)と言う感想だった。
落ち着いた仁は思い出したように楓から元々着てた服を受け取り、乾燥機にかけていると
「ピアノ…弾くんだ」
と、楓に言われた仁は視線を乾燥機のダイヤルに向けたまま
「あぁ、小さい頃かやっててな、弾いてもいいぞ」
と答えた。
するとすぐ滑らかなで滑るような音色が聴こえ
(あぁ、俺より上だ)
弾いている曲の難易度に対した差はないが音の出し方に大きな違いがあり、仁はその、音が好きだった。
楓が弾いていた1曲が終わると
「音…綺麗だ」
褒めたたえるように仁が言えば、「ねえ、弾けるんでしょ?これ弾こ?」
と、言われて見せられた楽譜は連弾用の楽譜だった。
仁は楓の綺麗な音を邪魔したくなかったが、一緒に弾いてみたらどんなに心地好いか、という期待となにより楓は弾いて欲しそうなので
「わかった。雪原、お前メロディーな」
といって楓の横に腰を掛けて弾きはじめた…