第7章 霧が晴れる時
霧が晴れる頃に 146話 再現
「おう、入れよ」
いつも通り、しかし優しい声色で楓を迎える。
「うん」
ふわりと笑い、楓は着てきたコートを脱ぎつつ返事をする。
夕方になるとまだ外は寒い。
仁は入れておいた湯気が立ち上るコーヒーを盆に乗せ、零さない様に階段を上がる。
両手が塞がっている仁に変わり、楓がドアを開けるのも慣れた動作。
コトンと机に盆を置き、カップを1つ楓に渡す。
「ありがとう」
楓は両手で包み込むように受け取り、冷えた手を温めながら仁のベッドに腰をかけた。
仁は片手を机に置き、コーヒーを一口含み、コクりと喉を鳴らす。
(そうだ…打ち上げの後、今楓が座ってる場所に俺が座っていて…)
余程身体が冷えたのかコクコクとコーヒーを飲みほしていく楓を眺めながら思い出す。
綺麗な、柔らかな声で伝えられた彼女の言葉を思い出す。
「楓」
自然と漏れ出た声は、自分でも信じられないほど柔らかな声だった。
「ん、どうしたの?」
コトンと飲み干したコーヒーのカップを机に置き、またベッドに座り直した楓は小首を傾げた。
仁も机にカップを置き、楓の前に立つ。まるで、楓が仁に告白したときの様に。
優しく、柔らかく、かつてない満面笑みで告げた。
「好き」
楓は一瞬硬直するが、すぐにニッコリと笑い、仁の手を引き、倒れてくる仁を受け止めつつ自らもベッド倒れる。
「私を選んでくれてありがとう。特別にしてくれてありがとう」
「好きだよ、仁」
仁の背中に手を回し、ギュッと抱きしめた。
そう。これは楓が想いを告げた時の流れ。
仁と楓が互いの言葉を一言一句漏らさず再現している。
あの時をどれだけ大切に思っているか、どれだけ心に深く染み付いているか、お互いをどれだけ好きでいるか。
2人で確かめあった…