第7章 霧が晴れる時
霧が晴れる頃に 147話 笑顔
「なぁ…」
「うん?」
「今日元々はなんの用事できたんだ?」
「なに、用事がなきゃきちゃいけないの?」
「はは、そーゆーわけじゃないけどさ」
そういうと、楓はうっとりと目を閉じ、話しはじめた。
「あのね、仁、笑うようになったなぁって」
「俺、前笑ってなかったか?」
「ううん。そんなことない。でもね、なんか手放しで笑わないっていうか、冷静でいる部分があるなぁって、前に思ったことがあるの」
…霧が立ち込めているような笑顔…楓はそう感じたことがあった。
「仁は優しい、だからいつも周りに気を使っていたの、不快にせないように、安心できるように、楽しく暮らせるように…でも、そんな優しい仁だから、仁自身はいつでも気を張って、100%楽しむことができなかった」
楓の瞳に悲しみとそんな仁を愛おしく想う心が写っているようだった。
「でも、今日、初めて心から笑ってくれた気がした」
「いつだ?」
「林に椅子取りゲーム本気にさせられたでしょ、その時からなんだか凄く楽しそうだった…」
「あぁ…」
仁は確かにと頷く。
「雨宮君と1対1やってるときなんてどうやって勝とうか考えるのか楽しくて仕方ない感じだった」
「そんなだったか、俺」
「うん。それほど楽しんでたから私は安心して、そのことについて話したかった」
「そっか、ありがとな」
仁は優しく愛おしそうに楓を抱きしめる。
「さっきなんか、いままでで1番の笑顔で笑ってくれたね」
「あぁ…自然と笑えた…楓のおかげだ」
「林と雨宮君もね!」
「そうだな…あ、でもあいつらに言うなよ、調子乗るから」
「そうね、目に浮かぶ」
「はははっ」
「ふふふっ」
笑いが込み上げて来る。
2人で幸せそうに穏やかに笑った
霧はもう晴れた…