第7章 霧が晴れる時
霧が晴れる頃に 142話 椅子取りゲーム
「よしっ!じゃあ時間の関係で椅子取りゲームだ!異論は認めん!さぁ椅子を並べろ!」
五十嵐の指示にすら何故か歓声が上げているクラスメイトを仁はいつもの様に大人びた目線で見ている。
「music start!」
突然五十嵐が何処から持ってきたのかラジカセで軽快な音楽を流し始めた。
クラス全員がぞろぞろと円状に並べた椅子の周りを歩き始める。
(ま、1回目で抜けるかな…)
眠そうに歩を進めながら仁はゆっくりと周りに合わせて歩く。
曲が急に止まった。
(よし、抜け……!?)
仁が輪から抜けようとした瞬間、服を誰かに引っ張られ椅子に座らせられた。
背中を引っ張ったのは誰か、振り返れば林が笑顔で座っていた。
「ダメだよ~霧ケ谷君、こういうときくらい本気で楽しまなくちゃ!!」
いつも通りの花が咲いた様な笑顔で仁に話しかける。
そんな林に一瞬呆気に取られるが、林に釣られ仁も少し笑顔になる。
そして本気を出した仁は久しぶりに観察力を発揮し、五十嵐の曲を止めるタイミングを見破り、残り3人、仁、慶、ゲリラが残った。
ここで椅子を1つにし、理科室等にある丸椅子を持ってきて、音楽の止まったタイミングで有利不利が出ないようにする。
前にゲリラ、後ろに慶。
教室が緊張に包まれ、静寂の中、軽快な音楽と足音だけが聴こえる。
仁は結局学年4位まで上り詰めた頭脳をフルに使い、考える。
(慶はいつも通り身体能力で勝ち残ってるな、ゲリラは目を閉じて聴覚に全神経を集中させてる…)
そこまで考えるとなにを思いついたのか仁はニヤリとシニカルな笑みを浮かべた。
「ピタッ」
ザッ!!!
ゲリラが椅子に座った。
曲はまだ流れている。
「ゲリラ!お手付き!負け!!」
「え?え?」
なにが起きたか分からないと、ゲリラが辺りをキョロキョロ見回すが分からず、呆然としている。
仁は前を歩くゲリラの耳元で「ピタッ」と小さく言ったのだ、聴覚に全てを任せ、過敏になっていたゲリラは『ピタッ』という曲が止まった時のイメージだけで反応してしまったのだ。
耳元で小声で言ったのでクラスメイトにもばれていない、が。1人だけ、楓は気付いているのだろう、半目で呆れた顔で仁を見ている。(仁は気にしないことにした)
音楽は流れ続いているのでゲリラが退場すると再び歩き始めた。
