第6章 春へ…
霧が晴れる頃に 132話 倒れた慶は
「くっ…!!」
前で倒れた慶の手前で仁は立ち止まる。
(くっそ、一瞬遅かったかっ!!)
もう仕掛けた罠は何もない。もう、仁に策はない。
「雨宮君!!雨宮君!!」
涙で潤んだ目をした冬花が悲痛に叫ぶ。
冬花の声にも慶はピクリともせず俯せている。
「あぶねぇあぶねぇ、くそガキが、刃向かうからこうなるんだよ!」
赤雲はニタリと笑い、慶を足で突きながら言う。
「こいつと、お前は殺しといた方がいいな」
そういうとピストルを仁の心臓に向けた。
「さよならだ」
仁にはピストルの引き金が引かれるのをスローモーションの様に見えた。
(ああ、死ぬときってこうなるんだなぁ)
なんとなく落ち着いた気持ちでそんなことを考えて、自分の心臓に弾丸が突き刺さるのを待った。
「必殺!足ばらい!」
スパァァァンと気持ちのよい音と同時に赤雲の足は払われた衝撃で体制が崩れながら撃たれた弾丸は大きくそれ、天井の蛍光灯に命中した。
赤雲はズデンと転び、倒れる。
「なっ…んだ!?」
なにが起こったのかわからないという声で赤雲は叫び、倒れたまま上を見る。
そこには右太股から血を流しつつもニッコリと笑い立っている雨宮慶が…いた。
「死ね」
いつもの爽やかな笑いと違い、煮え繰り返る怒りをなんとか表情にするのを抑えている様に笑いながら、低い声で言った。
倒れている赤雲の近くに落ちているナイフを手の届かぬところに蹴飛ばし、腹に一発蹴りを入れた。
「あっ…がっ…」
声にならないほど痛いのか腹を抱き込み動かなくなる、悶絶しているのだろう。
「仁、じん、カッター持ってるだろ?貸せ、冬花解放しなきゃ」
慶が立ったこと、「死ね」など普段絶対言わない発言をしたこと、自分が生きていること。驚きが多過ぎてフリーズしていた仁は我にかえり慶にカッターを渡す。
「もう大丈夫だからな?」
縄を切りながら泣きじゃくる冬花の頭を撫でている慶を背に座りこんでいるクラスメイトの安否を確認しようと振り返る。
安心仕切って脱力したような顔をしているクラスメイトを確認でき、全員無事だとわかる。
「…良かった」
仁は安堵の声を漏らした。