第6章 春へ…
霧が晴れる頃に 128話 まさか…な
「あいたたたっ!」
「五十嵐?」
3時間目、英語の授業中に担任の五十嵐が腹部を抑え、しゃがみ込む。
「先生~?大丈夫?」
「大丈夫じゃない!!っいてて…ちょっと保健室行ってくるな、教室内で自由時間だ」
五十嵐の急な腹痛と引き換えに1年1組は自由時間を得た。
がやがやと立ちはじめ、話し始める生徒たちを脇目に仁は眠そうにグラウンドを見る。
すると1人の男が正門から昇降口に向かって来るのが見える。
(…来客は職員玄関からだろ…?)
顔は遠すぎて確認できない。しかし用務員や工事の人なら昇降口へ入ることもあるだろうが服装は至って普段着の様で、仕事で来た人にしてはラフ過ぎる。
仁はこの男に妙な違和感を覚えると同時に胸騒ぎが始まる。
(おかしい…けど…まさか…な)
今、自分が考えてることなんて日本中で、いや世界中ですら滅多にない。あったらニュースになるほどのことで、余りにも信じがたいが…不安はドンドン強くなり、顔が青ざめていくのがわかる。
万が一の為と中々動きだそうとしない自分に言い聞かせ仁は立ち上がり裁縫道具を鞄から取りだし、釣り糸を取り出す。
この釣り糸は家庭科の先生が丈夫だからという理由で買ってきてそのまま裁縫道具の中に入りっぱなしになっていたものだった。
仁は立ち上がり、騒がしい教室を出来るだけ静かに、目立たないように歩く。
どの教室にもある金属製の掃除道具入れ。中にはバケツやらほうきやらが入っている。
掃除用具入れを開けると目の前に小さなタイマーがある。このタイマーが鳴るまでに掃除を終わらせないとその翌日の掃除を2倍やらなければいけなくなるというルールがあった。
仁はタイマーを25分後にセットし、掃除用具入れを閉める。
次は掃除用具入れの上に置きっぱなしで埃を被っているラジカセに釣り糸をくくりつける。
かなり高いところにあるのでかなり苦労したがしっかり結びつけた後釣り糸を持ったまま仁は次は教室の前の方の棚にあるガムテープを取りに行った。
仁がガムテープを手に取った瞬間
ガラッ!!
と、激しい音をたてて教室のドアが開く音がした。
そちらを向くと…仁がまさかと恐れていた男がピストルを天井に構え立っていた。
今朝のニュースでやっていた、コンビニ強盗が逃走中で犯人の写真も名前も報道されていた。
名は、赤雲…
