第6章 春へ…
霧が晴れる頃に 127話 星 冬花
仁は林と慶のモテの凄まじさを面白そうに見ていると視界の端、教室の右後ろ、1番ドアに近い席の近くで大きめの包みを持ち、立ったり座ったりしている子がいる。
「なぁ霙、あの子誰だっけ?」
「冬花?」
「あ、そうそう星冬花(ほしふゆか)」
「もーもう2月だよ?まだ覚えてなかったの?で、冬花がどうしたの?」
「あー、なんかアレ…本命かなぁって…」
仁にそういわれ、林は目を細めて冬花を見る。
立ったり座ったり下を向いたり前を向いたり…挙動不審とも見える彼女は明らかに本命チョコを持っている。
「あー、多分そうだね…冬花かわいいな~」
ビクビクと、小動物の様な彼女は大人しい性格で目立つことがなく、また、男子と喋ることもみたことがない。
ここまでは昔の楓と似ているが圧倒的に違うのは彼女は自分に全く自信がないのだろう。
授業中の発言も極力控え、人に言われれば全て言うことを聞いてしまう。
冬花の名前を覚えていなかった仁も、既に癖に近い観察を無意識に日常的に行っているとその事がわかる。
(楓はなんでもできるからな…)
料理以外は…と付け加え、今年はどんなクッキーをくれるのだろうと嬉しい気持ちと憂鬱な気持ちが両方襲ってくる。
あまり思い出さないようにしているが小学校時代のクッキー。甘くこそないが逆に渋かったり粘っこかったりと…いいようのない笑いが込み上げて来る。
思考を戻し、星はどうしたかと目を向けると座る方に落ち着いたようだ。
「まぁ、昼休みも放課後もあるからな…」
「そうだね、渡せるといいね~、慶ちゃんも勘いいんだから気付いてあげればいいのに!」
密かに応援しはじめた林と仁だった。