第6章 春へ…
霧が晴れる頃に 126話 慶のバレンタインは…
クラスの空気がピリッとする。
男子の眼光が鋭くなる、敵を見る目だ。
「な、なんでこんな静かなんだよ」
いつもと違いすぎる教室の雰囲気に困惑する慶にすぐ後ろから入ってきた林が半笑いで言う。
「さぁ~ねぇ~」
慶は首を傾げ、微妙な空気の教室を歩き、席に座ると、林が慶の目の前に大きな袋を置く。
「はい、紙袋。私のは中に入ってるよ。毎年もらうんだからちゃんと持ってきなよ」
「あ、サンキュ」
林は続いて仁のところに来る。
「霧ケ谷君、はい。クッキーにしたよ!」
「おう、わざわざありがとな」
前もって仁の味覚を聞いてきた林に感謝しつつ期待できる味だろうと丁寧に鞄にしまう。
すると何を思ったか慶が立ち上がり口を開いた。
「みんな見たか俺と仁への態度の差!ひどくね!?そんなわけで女子の皆さん!余ってるチョコレートがあったら俺が引き受けますんでバンっバン持ってきてくださいな!」
その掛け声を合図に女子達が順番に、次々と慶にチョコを渡していく。
頭を殴ってからとか、笑いながらとか、投げ渡すとか、照れ隠しからか雑な渡し方が多いようだった。
そんな女子達を見て男子は舌打ちをし、頭を掻きむしり、机を蹴っ飛ばす。
クラスの女子ほとんどからこんな扱いをされてる慶に呪いを込めているようだった。
それまで静かにいつも通り本を読んでいた楓は(思春期の男子って…ちょっと醜いかも)などと、考えていたことは誰も知らない…