第5章 冬へ…
霧が晴れる頃に 118話 演奏後に思うこと
慶が指揮棒を持っていないほうの手をギュッと閉じた。
パチパチと拍手をもらい、1組の生徒の合唱は終わった。
無事引き終えた仁は「ふうっ」と安堵の息をついた。
(慶に感謝…だな)
よくアイコンタクトだけで互いの意思を読めたものだな。と、仁自身思ったのだった。
自分の演奏を思い出して見れば楽譜が落ちて自信がなくなっていた時を除けばよく指が動いていたと思う。
(これは…楓のおかげか)
思い出すのは演奏前のあのやり取り。いまだ、冷たい鍵盤に触っていた手は暖かいままだ。
頭を切り替え歌はどうだったと思い出すと響いていたのは林の声。慶がテンポを少し落としても仁の演奏が弱々しくなっても歌う声が動揺しなかったのは林のおかげだろう。
(林にも感謝だな)
仁を助けてくれたのはいつもの3人だった。