第5章 冬へ…
霧が晴れる頃に 116話 冷たい手を暖める
本番直前、ステージ横の待機部屋で1組の生徒は半分に分かれて待機させられていた。
壁際でよっ掛かりながら、仁は冷たい手を擦り合わせていると楓が歩み寄って来た。
「手、冷たいの?」
「あぁ、指動かないと困るからな」
そう淡々と返事をすると、楓はなにかを考える仕種をした。
クラスメイトに背を向け、擦り合わせていた仁の両手を上から重ねるように仁の手を握った。
仁は一瞬で自分の体温が上昇するのを感じた。
「…少しはあったまる…?」
楓の小さい手で握られた仁の両手は(いや、全身は)一瞬のうちで暖まり、暑いぐらいだった。
「おう、ありがとな」
仁は精一杯の笑顔で返事をすると楓は良かった、と軽やかに笑う。
そんな恋人同士の甘いやり取りをしているとは知らず、司会の子のアナウンスがかかり、仁達はステージに登壇した。