第5章 冬へ…
霧が晴れる頃に 107話 コーヒーカップ
ふらつく体を無理矢理おこしてなんとか歩く。
角度が大きくなりすぎると斜面は見れなくなる…となにかの本で見たことがあったが、自分が体験するとは思わないだろう。
(1つ乗っただけなのに…疲れた)
疲労の色が見れる仁に比べ楓は嬉々としている。
いつもそっくりな2人がここまで対照的なのは珍しい。
「仁、仁、次行こ?」
ボーッとしてしまっている仁に楓は待ちきれない様に次を促す。
「おう…」
なんとか返事をした仁と少し落ち着いたがまだまだ興奮が収まっていない楓は歩き出す。
楓に先導され歩いていくとコーヒーカップが目に入る。
「乗る?」
「うん」
短い会話のやり取りをした後、1つの白色のコーヒーカップに入る。
仁が一息ついた様に息を大きく吐きながら座ると、その隣にピッタリと寄り添って楓がストンと座る。
コーヒーカップは2人なら向かい合わせに座るのが普通、別のカップに乗っている他の客も向かい合わせで仲良く喋っている。
仁は楓の意図が読めず、隣に座る楓の顔を除き見る。
すると楓は「どうしたの?」と小首を傾げ不思議そうに言う。
「いや、普通こういう時向かいに座るよなって」
そう言うと楓は意味ありげに仁をじっと見つめ、やがて「ふぅ…」とため息をついた。
「仁がジェットコースターで疲れてるみたいだから隣に座ったの」
気を使ってくれたらしいが…楓のそんな不器用な優しさを受けた仁は少しだけおかしくなり小さくクスッと笑ってしまう。
そんな仁の様子を見て、少し拗ねた様に「馬鹿」や「鈍感」などと楓が悪態をついているのが聞こえる。
「ははは、ごめんって、ありがとな」
慶に習い、爽やかな笑顔(仁のできる限りの)で笑い、礼を言う。
「どういたしまして…馬鹿」
まだ拗ねているのか語尾に普段は言わない言葉をつけて不機嫌そうに言う。
機嫌を直すにはどうするかな…と少し思考するとなにか思い付いたのか腕を動かす。
コーヒーカップの座席に置かれている手をギュッと握られた楓の手は一瞬逃げようとするがそれを許さず仁はしっかり握りしめ、流れるように指を絡ませる。
久しぶりに繋がれた楓の手は保健室の時とは違い、ヒンヤリと冷え切っていて冷たい。
そんな仁の手より一回り小さい楓の手をあっためるべく更に深く指を絡ませた…