第5章 冬へ…
霧が晴れる頃に 106話 ジェットコースター
「さて、どれ行く?」
「あれ!」
楓が指差したのはこの遊園地1番有名であるジェットコースター。
このコースターは地上50mまで登った後にほぼ垂直の角度で真っ逆さまに地面に降りる…というものだ。
もちろん、ここで1番怖くて有名なのだ。
(いきなり…心臓に悪いもん選ぶなぁ…)
仁自身、絶叫系は得意とは言えない物だがそんな格好悪いとこを楓に見られるわけにもいかず、若干強張った笑顔で先導する楓についていく。
待ち時間はさほどなく、5分程待つと係員に通され1番前の席に座る。
(よりによって1番前か…)
内心逃げ出したい仁だったがすでに下りてしまったレバーに固定され逃げ場はない。
隣を見てみると目に見えてウキウキしている楓。
普段ここまであからさまに喜ぶ楓は見たことはなく、少し得した気分になったのもつかの間…
「いってらっしゃーい!!」
(1日ずっとこのテンションでいるのも大変だろうな)と、思わせる見送りの言葉を係員にもらいコースターは動き出した。
ガタン、ゴトン
ゆっくりと上がっていくコースターに緊張と恐怖をせがまれている仁の隣で楓は相変わらず嬉しそうで楽しそうだ。
「そんなジェットコースター好きなのか?」
「うん、好き。なんでかって言われても困るけどね」
「そういうもんか」
「そういうもんだよ」
…なんて話しているとなんだか後ろが騒がしくなる。
(なんだ…?)
ふと前を見るとそこには観覧車とその後ろに広がる街が見えるだけで、登っていたはずのコースターの線路はない自分の体は空に投げ出されている様に感じた。
その次の瞬間…仁は頭の中が真っ白になった。