第5章 冬へ…
霧が晴れる頃に 105話 行き先は
楓は見とれるものでもないだろうに思わず言葉を失い見とれてしまう。
連れて来られたのは遊園地の入口。楽しそうな歓声やジェットコースターの荒々しい音が聞こえて来る。
「平凡で悪いな、でも他に思いつかなくて」
申し訳なさそうに首の後ろを掻きながら言う仁の声が耳に入り聴神経を通りやっと脳に伝わる。
「すごく楽しそう!!」
思わず飛び出た歓喜の声色の言葉だけで仁の顔は晴れる。
「良かったぁ」
本当にホッとしたのだろう、仁はユルユルと体の力が抜けていくのが分かる。
「ね…早く入ろ?」
柄にもなく、はしゃいでいるのが隠しきれていない楓に急かされ遊園地に入場する。
中に入ってみると、クリスマスだけあって見渡す限りにカップル、カップル、カップル。
仁と楓もカップルなのだからその中の一員なのだが…そのことを忘れて仲良く2人で同じ事を言う。
「クリスマスだもんね…」
「クリスマスだからな…」
ほぼシンクロした言葉に驚き、顔を見合わせればクスクス笑い会う。
その姿は周りからみれば見事に1組のカップルなのだが、そんなことには全く気付かず、テンションを取り戻した楓が急かしアトラクションへ向かった。