第16章 帰宅
やがて、彼女は少しだけ身体を離し、俺の顔を見上げた。
「……ねえ、脹相」
「なんだ?」
「キスしてもいい?」
今度こそ、完全に言葉を失った。
彼女は照れくさそうに笑う。
「……おかえりの、キス」
「……お前は、本当に……」
どうして、こうも俺の心を揺さぶるのだろう。
俺は彼女の頬に手を添えた。
「……俺からしてもいいか」
彼女は嬉しそうに目を細めた。
「うん」
そっと唇を重ねる。
短いキスだった。
けれど、離れた瞬間、彼女がまた俺の首に腕を回してきた。
「……もう一回」
「……ああ」
もう一度。
今度は、少しだけ長く。
唇が離れると、彼女は安心したように笑った。
俺はその笑顔を見つめながら、彼女を抱きしめ直した。
……もう、駄目だ。
今夜は、きっと彼女を離せない。
「……おやすみ、脹相」
彼女が俺の胸元に頬を寄せる。
「ああ。おやすみ」
背中をゆっくりと撫でているうちに、彼女の呼吸は少しずつ穏やかになっていった。
俺はその身体を腕の中に抱いたまま、目を閉じた。
ようやく、帰ってこられた。
彼女の隣に。
彼女が待っていてくれる、この家に。
もうしばらくは、離れたくない。
そう思いながら、俺は久しぶりに、安心して眠りについた。