第16章 帰宅
「……ちょう、そう……?」
「ああ。俺だ」
彼女は何度か瞬きをした。
まだ夢と現実の区別がついていないのだろう。
俺の顔を見つめたまま、しばらく動かなかった。
それから。
「……え?」
ぱち、と目が見開かれる。
「……脹相!?」
「しー、声が大きい」
小さくそう言うと、彼女は慌てて口元を押さえた。
「えっ、なんで!? 帰って来れたの!?」
「ああ。五条から、家に戻っていいと言われた」
「……ほんとに?」
「本当だ」
彼女は俺の顔をじっと見つめた。
それから、自分の手に握られた上着へ視線を落とす。
「…………」
「あ……」
急に、彼女の頬が赤くなった。
「こ、これは……!」
上着を背中に隠そうとする。
けれど、もう遅い。
俺は思わず笑ってしまった。
「……俺の上着だな」
「ち、違……いや、違わないけど……!」
「そうか」
「……っ、うぅ」
彼女は顔を真っ赤にして、布団に潜り込もうとした。
その姿が、あまりにも愛おしかった。
「待て」
俺は彼女の手にそっと触れた。
「……隠れなくていい」
「だって……恥ずかしい……」
「どうしてだ?」
「どうしてって……!」
彼女は困ったように俺を見上げた。
「……寂しかったから……」
その一言で、俺の中に残っていた最後の遠慮が消えた。
「…………そうか」
俺は彼女の手を取った。
「俺もだ」
「……脹相も?」
「ああ。ずっと、お前に会いたかった」
彼女の瞳が、ゆっくりと揺れた。
「……帰ってきてくれて、嬉しい」
「……俺も、帰ってこられて嬉しい」
彼女は俺の手をぎゅっと握った。
少し迷ってから、小さく腕を広げる。
「……抱きしめて?」
一瞬、言葉を失った。
そんなことを言われて、断れるはずがない。
俺は彼女をそっと抱き寄せた。
温かい。
柔らかい。
ちゃんと、ここにいる。
「……おかえり、脹相」
彼女が俺の胸元に顔を埋めた。
「……ただいま」
俺は彼女の背中に腕を回し、ゆっくりと撫でた。
彼女もまた、俺の背中を撫でてくれる。
まるで、離れていた時間の寂しさを、お互いにほどいていくように。