第16章 帰宅
「ま、僕としても、君が大人しくしてくれるなら、そのほうが都合がいいし?」
「……努力する」
「うんうん。じゃあ、家に帰っていいよ。ただし、しばらくは慎重に。余計な情報を上に渡す必要はないからね」
「……わかった」
胸の奥に、じんわりと温かいものが広がった。
ようやく、あの家に帰れる。
彼女の待つ家に。
そう思っただけで、張り詰めていた気持ちが少しずつ緩んでいく。
「……お前が、色々と動いてくれたのか?」
五条は一度瞬きをして、それからふっと笑った。
「僕も多少はね。でも、あの子が今まで周りと築いてきた関係も大きいと思うよ」
「……あいつが?」
「そう。あの子を大切に思ってる人は、僕が思ってる以上に多いんだよ。本人は全然、自覚してなさそうだけど」
俺は黙って話を聞いていた。
彼女が人に好かれることは知っている。
誰かが困っていれば自然と手を差し伸べ、相手の立場によって態度を変えることもない。自分のしたことを誇るでもなく、ただ、自分にできることを当たり前のように続けている。
だからこそ、彼女がどれだけ多くのものを積み重ねてきたのか、俺は時折、本人以上に不思議に思うことがあった。
「……そうか」
彼女は、きちんと認められている。
彼女が誰かに向けてきた優しさも、過ごしてきた時間も、何も無駄ではなかったのだ。
そう思うと、胸の奥が誇らしさで満たされた。