第14章 離れて暮らすのも
「……先生」
「んー?」
「いつまで、これを続けるんですか」
五条はすぐには答えなかった。
雨音だけが、二人の間に流れる。
先ほどまで浮かべていた笑顔が、ほんの少しだけ薄くなった。
「……そうだね」
五条は、彼女が歩いていった方向を見つめた。
「僕も、そろそろ動くよ」
いつもの軽い調子ではなかった。
それだけ言って、五条は静かに目を細める。
恵は、それ以上何も聞かなかった。
ただ、雨の中に消えていった彼女の姿を思い浮かべていた。
彼女が上着に顔を埋めたときの、あの嬉しそうな笑顔。
そして、その上着を託した脹相のことを。
二人が離れて暮らすようになってから、もうしばらく経つ。
守るための距離。
けれど、いつまでも離しておくことが正しいとは限らない。
五条は傘を持ち直し、ぽつりと呟いた。
「……あの子も、脹相も。そろそろ、寂しいのを我慢するのは終わりにしてあげないとね」
雨はまだ、静かに降り続いていた。