第15章 牽制
「ああ、それから。…あの子の入れてくれる茶は美味い」
「……はい?」
「また一緒に琴をやろうと思っておる。次に来たときにでも、そう伝えておいてくれ」
五条はしばらく老人の顔を見つめ、それから吹き出した。
「はははっ! 学長、結局あの子のこと気に入ってるんじゃん!」
「何を言っておる。話をすり替えるな」
「いやあ、お茶に琴って。ずいぶん楽しみにしてるんだねえ?」
「……分かったらさっさと帰れ」
「はいはい。ちゃんと伝えておくよ」
五条は笑いながら学長室をあとにした。
廊下を歩きながら、彼は小さく息を吐く。
ひとまず、脹相が処分されることはない。
虎杖との関係を理由に協力を続けさせ、動向を監視する。楽巌寺の判断は、あくまで呪術界にとっての合理性に基づいたものだ。
それでも、彼女が以前より笑うようになったことを、あの老人はちゃんと見ていた。
恋愛を認めるつもりはなくても、その笑顔を失わせたいわけではないのだろう。
「……ほんと、素直じゃないんだから」
五条は苦笑した。
虎杖の処刑にしたって、決定されたからといって、その結末まで決まったわけじゃない。
抜け道はいくらでも考えられる。
脹相のことも、彼女のことも。まだ、どうにでもできる余地はある。
今はただ、余計な火種を増やさず、状況を維持しておけばいい。
「ま、何とかなるでしょ」
五条はいつもの笑みを浮かべた。
――彼女が、これからも笑っていられるように。