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③呪術廻戦〜脹相と恋人と絡み〜

第14章 離れて暮らすのも



促されるまま、私は上着に袖を通すと、
ふわり、と
鼻先をかすめた香りに、私は動きを止めた。

「……あ」

知っている。
この香り。

何度も隣で眠って、何度も抱きしめられて、何度も胸元に顔を埋めてきた。
忘れるはずのない香り。

「……これ、」

思わず口にしかけた、そのとき。
五条さんが自分の唇の前に人差し指を立てた。

「しーっ」

その仕草を見て、私は言葉を飲み込んだ。

五条さんはいつもの軽い笑顔のまま、私の肩をぽんと叩く。

「君、寒そうだったからさ! 五条家にいる人に渡されたやつなんだけど、使っていいよ」

……五条家にいる人。

わざわざ、私に渡された上着。

脹相は今、五条家で暮らしている。

そして、これは。

私は上着の袖口をそっと握った。

そうか。
脹相が、私のために。

私が帰る頃には雨が降っているかもしれないと。
肌寒い思いをするかもしれないと。

私が自分で気づくより先に、考えてくれていたのだ。

胸の奥が、じんわりと温かくなる。

「……そっか」

上着の袖に、そっと顔を埋めた。

彼の香りがする。
今すぐ会いたい。
抱きしめてほしい。

けれど、今はそれができないから。
代わりに、私は上着をぎゅっと抱きしめた。

「……ありがとう」

小さく呟いてから、五条さんを見上げる。

「大事に借りるね」

その顔には、自然と笑みが浮かんでいた。

「うんうん。風邪引かないようにね」

五条さんは、何も聞かずに笑っていた。

私はもう一度袖口を握りしめ、それから傘を開いた。

「じゃあ、帰るね。2人も気をつけて!」

「ああ。気をつけて帰れよ」

「またねー!」

二人に手を振り、私は雨の中を歩き出した。
上着の中は温かかった。

それだけで、いつもより少しだけ、帰り道が寂しくなくなった。

彼女の姿が雨の向こうに小さくなっていく。

恵はしばらくその背中を見送っていたが、やがて隣に立つ五条へ視線を向けた。

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