第13章 密会〜五条家
キッチンに近づくと、包丁の心地よい音が聞こえてきた。
「……」
脹相は、彼女を見てその場で足を止めた。
「……ん?」
「あっ、脹相! どうしたの?」
その笑顔を見た途端、思わず抱きしめたくなった。
今すぐ後ろから腕を回して、肩に顔を埋めたい。
会いたかったと伝えたい。
けれど、邪魔をしてはいけないと思ってぎゅっと拳を握った。
「……いや。五条に用があった気がしてな」
「五条さんなら、多分部屋だよ」
「……そうか」
「うん。でも、ちょうどよかった!脹相もあとで一緒に食べようね」
「……いいのか?」
「もちろん! 脹相の分も作るよ」
当たり前のように言ってくれる。
そのことが嬉しくて、脹相は一瞬、返事を忘れた。
「……ああ。楽しみにしている」
彼女はにこっと笑い、また料理に向き直った。
脹相はその後ろ姿を見つめながら、もう一度だけ拳を握る。
……抱きしめたい。
だが、今は我慢だ。
彼女の作った料理を一緒に食べられるだけでも十分なのだから。
そう思っていた、そのときだった。
「じゃ、僕ちょっと硝子に用事があるから、二時間くらい出かけてくるね!」
突然、五条の声が響いた。
「えっ、二時間も? そんなにかからないよ!?」
彼女が包丁を置いて振り返る。
「いいのいいの。ゆっくり作っててよ。帰ってきたらご飯があるなんて、最高じゃん?」
「もう、五条さんったら。先に言ってくれたらいいのに……」
「じゃあ、2人ともよろしく!」
軽い足取りで去っていく五条。
玄関の扉が閉まる音がして、家の中が静かになった。
「……行っちゃったね」
「ああ……」
二人の視線が合う。
そこで、ようやく気づいた。
今、この家には二人しかいない。
彼女も同じことを考えたのか、じわじわと頬を赤くしていく。
「……えっと、二時間もあるね……?」
「……そうだな」
二時間。
いつもなら、帰る時間を気にしながら、限られた数時間を過ごしていた。
けれど、今日は違う。
誰にも急かされない。
誰かの目を気にする必要もない。