第13章 密会〜五条家
五条家で暮らすようになって、しばらく経った。
脹相は客間で一人、静かに本を読んでいた。
彼女がいない生活にも、少しずつ慣れてきたつもりだった。
会える日は限られているし、彼女にも学校での仕事や研究、任務もある。
いつまでも自分の都合ばかりを優先させるわけにはいかない。
だから、会えない時間は大人しく待つ。
彼女が来てくれたときには、思いきり甘えればいい。
そう自分に言い聞かせていた。
そのとき、玄関のほうから聞き慣れた声がした。
「お邪魔しまーす!」
その声に脹相の手が止まる。
「はーい、いらっしゃーい。」
今帰ってきたはずの五条の声も聞こえた。
「いやー。嬉しいなぁ、久しぶりに君の手料理が食べられるの」
2つの声に、楽しそうな笑いが混じる。
「君が一人暮らしする前は毎日作ってもらってたから、たまに食べたくなるんだよねぇ、のご飯」
「ふふ、じゃあ今日は腕によりをかけちゃおうかな」
脹相は、本を閉じた。
彼女が、ここに来ている。
が、今すぐ顔を見に行くことすら、少し躊躇してしまう。
「……」
脹相は、ゆっくりと立ち上がった。
けれど、すぐに座り直す。
今は五条と一緒に来たのだ。
自分に会いに来たわけではないかもしれない。
勝手に顔を出して、彼女の邪魔をするのもどうなのだろう。
「……いや」
小さく呟いて、再び本を開く。
「……声をかけられるまで、待てばいい」
そう決めた。
しかし、数分後。
脹相はまた立ち上がっていた。
廊下を少し歩き、キッチンのほうを気にして、また客間へ戻る。
「……何をしているんだ、俺は」
とうとう自分でも呆れてしまった。
彼女が来ている。
ただ、それだけのことなのに。
こんなにも落ち着かない。
脹相はしばらく考え込んだあと、ふと思いついたように顔を上げた。
「……そうだ。俺は五条に用があった気がする」
誰に聞かせるでもなく、そう呟く。
用事が何かはどうでもいい。
それでも、彼女の顔を見に行く理由には十分だった。