第12章 密会〜余裕がない
何度か言葉を探すように口を開き、やがて、ぽつりと呟く。
「……先ほど、乙骨と話していただろう」
「あ、うん。現場のことで少しね」
「……楽しそうだった」
「え?」
「お前が、あまりにも嬉しそうに笑っていたから……」
そこで言葉が途切れた。
脹相は苦しげに眉を寄せる。
「……あんな顔をさせているのが、俺ではないことが……どうしても、嫌だった」
私は目を瞬かせた。
それから、先ほどの憂太との会話を思い出す。
「楽しそう…?ああ~!」
思わず声が出た。
「もしかして、脹相見てたってこと?」
「……ああ。耳元で…何かを囁かれて嬉しそうに…」
「憂太が内緒話したあと、私が嬉しそうにしてたってこと?」
「……そうだ」
私は思わず口元を押さえた。
そして、彼が何を勘違いしていたのか、ようやく理解する。
「そっか……! 脹相、あれね!」
「……何だ」
「憂太がね、脹相が空き教室で待ってるって教えてくれただけだよ」
「……は?」
脹相の動きが止まった。
「五条先生に頼まれて、私に伝えてくれたんだよ。だからそれを聞いた時嬉しくて」
「…………」
「今日は脹相に会えるんだって思ったらニヤニヤが止まらなくなっちゃって」
私は笑顔でそう伝えた。
脹相は、しばらく私の顔を見つめていた。
そして。
「……そう、か」
小さく呟いた次の瞬間、彼はその場にへにゃりと座り込んだ。
「えっ、脹相!?」
慌ててしゃがみ込む。
脹相は片手で顔を覆ったまま、微動だにしない。
耳が赤い。
首筋まで赤くなっている。
「……俺は……何を……」
「ふ、ふふっ……」
「笑うな……」
「ご、ごめん……でも……!」
だって、あんなに真剣な顔をしていたのに。
私が嬉しそうにしていた理由が、ほかでもない自分に会えるからだったなんて。
それを知った途端、恥ずかしさで動けなくなってしまうなんて。
かわいくて、愛おしくて、どうしようもなかった。
私はそのまま彼の隣に座り、そっと腕を回した。