第12章 密会〜余裕がない
「脹相?」
彼女の声だ。
脹相が振り返る。
扉が開き、彼女が顔を覗かせた。
「お待たせ!」
いつもの笑顔。
その顔を見た瞬間、張り詰めていたものが、ぷつりと切れた。
「……っ」
脹相は彼女に歩み寄り、その手を取った。
「え、脹相?」
驚く彼女を引き寄せ、腕の中に抱きしめる。
いつもより強い抱擁に、彼女は目を丸くした。
「どうしたの? 会いたかった?」
いつもなら、そう聞けば「……ああ」と返してくれる。
けれど、今日は違った。
脹相は私の顔を見つめたまま、何も言わない。
ただ、手を握る指先に力がこもっていた。
「……脹相?」
私が呼びかけた瞬間、彼の顔が近づいた。
いつもは頬に添えられるはずの手が、顎を包み、少しも顔を逸らすことのできないように固定されたまま、唇が重なる。
突然のことに驚いたけれど、彼の表情があまりにも切実で、私は目を閉じた。
一度離れた唇が、もう一度触れる。
気づけばトンっと背中が壁に触れていた。
「ん…」
「あ…」
深く、長く、熱く。舌が絡み合い、
有無を言わさない視線が私を捕らえた。
私は彼を見上げ、そのまま彼の服をきゅっと掴んだ。
「脹…っ」
いつもの温かみのある視線とは違う。
私を俺のものだとでも訴えてくるような目に、私は心臓が耳元にあるようにバクバクしている。
彼の気持ちに応えるように、もう一度キスを返す。
「んっ」
その瞬間だった。
「……っ!」
脹相が、はっとしたように身体を離した。
私の顔を見つめ、何かに気づいたように目を見開く。
「……すまない」
声が、ひどく苦しそうだった。
「え……?」
「すまない。俺は……」
脹相は私から目を逸らし、片手で顔を覆った。
「……お前に、こんなことをするつもりではなかった」
私はしばらく彼を見つめてから、そっと尋ねた。
「……どうかしたの?」
脹相はすぐには答えなかった。