第12章 密会〜余裕がない
「……脹相?」
不意に声をかけられ、脹相は顔を上げた。
いつの間にか、隣に五条が立っていた。
「何をそんな怖い顔してるの?」
「……何でもない」
「へえ?」
五条の視線が、彼女と乙骨のほうへ向く。
「あー、なるほどね」
「何がだ」
「いや、こっちの話。ちょうどいいや。脹相、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
五条は、いつもの調子で脹相の肩を軽く叩いた。
「先に空き教室で待っててくれる? あとで彼女も行かせてあげられるから」
「……分かった」
脹相はもう一度だけ、彼女のほうを見た。
乙骨と笑い合っている彼女は、こちらに気づいていない。
胸の奥に残ったもやもやを振り払えないまま、脹相は五条についていった。
空き教室の扉が閉まる。
脹相は窓際に立ち、腕を組んだ。
あとで彼女が来る。
そう聞いたときは、嬉しかったはずだった。
しばらく二人きりでいられる。
彼女を抱きしめて、頭を撫でて、会えなかった時間を埋めるように甘えたい。
そう思っていたのに。
脳裏に浮かぶのは、先ほどの光景ばかりだった。
乙骨が彼女の髪に触れていたこと。
二人が顔を見合わせて笑っていたこと。
そして、耳元で何かを囁かれたあと、彼女が見せた、あの嬉しそうな顔。あの一瞬の顔だけは俺だけに向けてくれるものと似ていた。
「……何なんだ、俺は」
誰に向けるでもなく呟く。
彼女を信じていないわけではない。
乙骨に対して敵意があるわけでもない。
それなのに、思い出すたびに胸が苦しくなる。
こんな感情は、知らなかった。
いや、違う。
知ってはいたのかもしれない。
ただ、これほど自分の中で大きくなるとは思わなかった。
――早く、会いたい。
そう思った直後、扉の向こうから足音が聞こえた。