第12章 密会〜余裕がない
現場の状況を確認するため、高専の敷地内を歩いていた。
任務の報告を終えた私は、少し離れたところに憂太の姿を見つけて、足を止める。
「あ、憂太!」
「お疲れさま。ちょうどよかった、少し話したいことがあって」
「うん、どうしたの?」
二人で話しながら歩いていると、憂太がふと私の頭に視線を向けた。
「……あ、ちょっと待って」
「え?」
彼が手を伸ばし、私の髪に触れる。
「花びら、ついてるよ」
指先でそっと取り除かれたのは、小さな桜の花びらだった。
「あ、本当だ! ありがとう」
「ううん。どこから飛んできたんだろうね」
「さっき外を歩いてたから、そのときかな?」
顔を見合わせて笑う。
ただ、それだけのことだった。
けれど、少し離れた場所からその光景を目にした脹相には、そうは思えなかった。
彼女が誰かと親しげに話している。
それだけなら、何もおかしなことではない。
彼女には彼女の交友関係があるし、誰と話そうと彼女の自由だ。
頭では分かっている。
分かっているのに。
乙骨の手が彼女の髪に触れた瞬間、胸の奥がざらりとした。
そして、彼女があんなにも楽しそうに笑っている。
自分といるときにも、彼女はよく笑う。
けれど、今の笑顔を見ていると、どうしようもなく落ち着かなかった。
脹相は無意識に拳を握った。
そのとき、乙骨が彼女の耳元に顔を寄せた。
何かを囁かれた彼女は、一瞬目を丸くして、それからぱっと顔を輝かせた。
「本当? ありがとう!」
嬉しそうに笑う彼女。
その表情を見た瞬間、脹相の胸の奥で、何かが音を立てた気がした。
――どうして。
――どうして、そんな顔をする。
自分ではない誰かが、彼女をあんなふうに笑顔にしている。
その事実が、ひどく面白くなかった。
自分でも驚くほど、苛立っていた。