第11章 密会〜研究室
「脹相は本当にいい子だね」
「……お前は」
「ん?」
次の瞬間。
座ったままの脹相が、私の腰に腕を回した。
「わっ……!」
驚いている間に、彼はそのまま私の胸元に顔を埋めるようにして抱きついてきた。
突然のことに、私は目を丸くする。
「ちょ、脹相?」
「……少しだけ」
くぐもった声が聞こえた。
彼の腕が、私の腰を優しく抱きしめている。
「少しだけ、このままでいさせてくれ」
その声があまりにも甘えているものだから、私は思わず笑ってしまった。
「……もしかして、ずっと我慢してた?」
「何をだ」
「こうやってくっつくの」
「……」
返事はない。
けれど、私の服を掴む指先に、ほんの少し力がこもった。
私は彼の頭に手を戻し、ゆっくりと撫でる。
「そっか。寂しかったんだね」
「……お前が、あまりにも普通に接するからな」
「普通に?」
「ああ。ここでは研究のことばかりで、俺のことなど気にしていないように見えた」
「ええっ、そんなことないよ!」
私は慌てて彼の顔を覗き込もうとしたけれど、脹相は離れようとしなかった。
「だって、脹相が協力してくれるのが嬉しかったんだもん。それに、研究中に甘えすぎたら、硝子さんにからかわれちゃうでしょ?」
「……あの女なら、十分にからかってくるだろうな」
「でしょ?」
二人で小さく笑う。
私は彼の頬に手を添えた。
「でも、私は脹相のこともちゃんと見てるよ」
脹相がゆっくりと顔を上げる。
すぐ近くに、いつもより少し甘えた表情があった。
「研究のために来てもらってるけど、脹相に会えるのも楽しみなんだから」
「……そうか」
「うん」
「……なら、もう少しここにいる」
「ふふ。いいよ」
私は彼の頭を胸元に引き寄せ、今度はこちらから抱きしめた。
脹相は満足したように目を閉じる。
「……やはり、お前に触れていると落ち着く」
「私もだよ」
「……家に帰ったら、もっと甘えてもいいか」
「もちろん」
そう答えると、脹相は私の腰に回した腕に、もう少しだけ力を込めた。
「……早く帰りたいな」
いつもなら何気なく聞き流してしまうような言葉なのに。
今は、その一言がとても愛おしかった。
脹相はもう一度、私の胸元に顔を寄せ、
研究室の静かな空気の中、私は彼の髪を撫で続けた。