第11章 吐き出す事ができたなら
———ねぇ相澤くん、相澤くんと私の子供は、
ストローを通ったばかりのミルクティーを盛大に吹き出して、俺は咽せながら紙パックを握る
きょとんと丸くなった無垢な瞳、立て掛けた自転車の影が伸びて
「なんでそんなに驚いてるの?」
「ば、お前、何言って・・!」
「え、だって将来結婚するでしょう?」
もしかして、しないの?、みるみる下がって行く眉と不安気に震える唇、リュックから取り出したタオルで服を拭くと、彼女が小さく笑った
「私たちの子供の個性は、どんなのかなって」
「・・そんな先の事、何一つ分からないだろ」
考えたって仕方ない、制服のネクタイを緩め芝生に寝転ぶと彼女が寂しそうに視線を空へ向ける
「そっか、分からない、かぁ」
そうかもね、でも相澤くんとできたらいいなぁ、
ごろんと横に寝転んだ彼女が小さく欠伸をして、吹き抜けた心地いい風の匂いを俺は今でも覚えている
あの時お前を繋ぎ止めていれば、
一度も突き放す事なく、お前の描く将来とやらに居座り続けていれば、今頃
「相澤くん?大丈夫?」
机越しに伸ばされた手がそっと俺の額に触れる、彼女にとっては特別な感情など何一つないその行為が、俺の疲労を優しく溶かしている事も知らずに
青い思い出の1ページ、とっくに過去に分類されている俺は朝帰りを責める事すら出来ない
「・・悪く無いんじゃないか」
「塚内さんはとても穏やかで」
相澤くんと居る時みたいに落ち着くの、信じられないほどの無神経、恐らく褒めているつもりなんだろう
ぴくぴくと顳顬が反応するのを抑えながら、俺は溜息をついた
「俺の方がいいだろ」
「ふふ、そうだね、一番しっくり来るかも」
「・・・・はぁ」
「たまにそういう意地悪な冗談言うところも、似てる」
やっぱり初恋の影響って大きいのかな、明るく笑う声は容赦なく俺の心をずたずたに引き裂いて、それでも耳心地の良いその声音をずっと聞いていたい
その顔ひっ掴んで無理やり口付けたなら、数え切れないほど繰り返したその想像は、どう転んでもリスクが高すぎる
「塚内さんのこと、好きかもって思ってたのになぁ」
「・・は?」
違うのか、俺は思い切り呆れた顔をしていたに違いない
何かを思い出した様子の彼女が、急に耳まで赤く染まって俺は内心酷く狼狽えた