第13章 尋問には黙秘を
「薬師さんが今、揺れているのは知っています」
「つ、かうちさん、」
「・・だから私も、揺らしてやろうと思いまして」
彼らしくない言い回しに思わず小さく笑いを溢すと、優しい溜息が聞こえる
意地悪の裏に見え隠れする誠実な人柄、喉を通る温かい紅茶のように心の中がじわりと温かくなった
「・・それはすごく、困ります」
「ええ、そうでしょうね」
その顔が堪らなく好きみたいです、らしくないと分かってはいるんですが、
スマホの当たる耳が熱い、返答に困っている私がまるで見えているかのように彼はこの沈黙を楽しんでいる
「い、今、お仕事の帰りですか?」
「はい、車の中です」
家に帰ると聞き耳を立てる同居人が居ましてね、そう言ってやれやれと吐かれた息、お茶目で魅力的な真さんの綺麗な目を思い出した
「・・本当は今から迎えに行って」
朝まで貴女を連れ回したい、言いながら呆れたように彼がまた笑いを溢して、私はもじもじとカップに視線を落とす
「迎えに行ったら、出てきてくれますか」
「っ、だめです、来ないで」
「・・その答えは、期待してしまうな」
甘い響きが耳にじわりと残って、私は早くこの電話を切らなくてはと焦り始めている
———オレ絶対塚内さんだと思ったわ、
ふと思い出されたのは山田くんの驚いた表情、塚内さんとの居心地の良い穏やかな時間は確かに私に安らぎをくれる
あの夜感じたホークスへの愛しさに間違いは無いと信じたいのに、そんな事ばかりが頭の中をぐるぐると回って
「・・めぐ、そう呼んでいいですか」
「ひっ」
「めぐ、」
「だめ、呼ばないで・・っ」
早鐘を打つ心臓、思わずぎゅっと目を閉じると意地悪で優しい微笑みが瞼の裏に浮かぶ
「・・次の約束はもう、貰えないのかな」
切なく響いた声が彼らしくない焦りを滲ませる
そんなわけない、揺れ動く気持ちのままそう言ってしまうのが怖くて、私は思い切り唇を噛み締めた
「さては、黙秘するつもりですね」
「・・っ、」
「貴女は優しい人だから、きっと辛いはずだ」
じゃあ今日はここまでにしようか、おやすみ、酷く優しい声音が胸を掻き乱していく
何も言わない自分の狡さに絶望しているのに、まだその声を聞いていたくて、音のしなくなったスマホを私はいつまでも耳に当てていた