第11章 吐き出す事ができたなら
普段からよほど注視している、こんな形でそれを実感するとはな、ただでさえ気怠い身体に鉛のような不快感が胸に落ちて頗る気分が悪い
聞きたくない、それなのに知らない事に耐えられない、俺はきっといつも通り表情を変えず、彼女の話を聞いてしまうだろう
静かに開けた保健室のドア、部活動で負傷者が出ない限り今日ここを訪れる生徒は居ないはずだ
「あ、相澤先生、来て下さったんですね」
「統計上、お前が敬語を使う時は碌な事がない」
「っふふ、何か淹れるね」
ケトルを手にする彼女の後ろ姿をまじまじと見つめる、やはり俺の記憶に間違いはない、ああ最悪だ、ここ数年で一番聞きたくない話をこれから俺は聞く事になる
「はい、どうぞ」
すっきりとした香りを漂わせたそれが、先日と同じ物なのか違う銘柄なのか、俺には分かりそうもない
ただこの間の角砂糖は白だった気がして、俺は新入りの琥珀色を見つめた
「朝帰りからの昼前出勤」
「ひっ」
小さく溢れた悲鳴、カップを置く手が分かりやすく震えて、俺は頭痛が強くなるのを感じる
「な、なんで分かるの・・っ」
「服が変わってない」
「よく覚えてるね、すごい」
感心したように彼女がぱちぱちと拍手をして俺は思い切りその顔を睨み付ける
「話を逸らすな」
塚内さんと一緒だったのか、まるで無関心、これでもかと平静を装って言葉を投げると彼女が気まずそうに視線を下げた
「・・ねぇ相澤くん、塚内さんってどう思う?」
「知らん」
「もう少し親身になってよ・・!」
滑らかなその頬を今すぐ思い切り抓ってやりたい、俺がどんな想いで居るかも知らないで、無言でぎろりと睨むと彼女がしゅんと肩を落とした
「良い人、だよね、?」
「・・・見たまんま善良だよ、信頼できる」
雄英着任前から世話になってる、ぼそぼそと呟くと彼女はまた目を伏せる
やっぱりあの人と居たのか、女性を朝帰りさせる印象は全く以て無いが、先日の雄英訪問時の必死さを思えば不思議は無いかもしれないと妙に納得した
「・・最近、結婚とか、色々考え始めてね」
少し照れ臭そうに唇を噛んだ彼女がカップを口に運ぶ
何が最近だ、結婚だ子供だと、学生時代から目を輝かせて語っていた癖に
忘れたのか、お前が描くその相手は、俺だったはずだ