第11章 吐き出す事ができたなら
電車の景色が見慣れたものに変わっていく、まだ甘い余韻の残る頭はひどくぼーっとして
響いた車内アナウンス、自宅の最寄り駅をとっくに通り過ぎていることに私はようやく気が付いた
一斉に開かれたドア、気持ちの良い涼しい風に誘われるまま降りた駅のホーム
部活動のために登校している普通科の生徒たちがぞろぞろと改札を目指していく
「みんな頑張ってて偉いなぁ、」
土曜出勤なんて長らくしていない、今のところ急ぎの仕事もないし、
そう思うのに自然と足が職場へ向かうのは、名残惜しそうに仕事へ向かった彼を思い出したからかもしれない
「・・私も少しだけ、頑張ろうかな」
今日何してたんですか、夜にはきっと少し不安気にそう聞かれるから、
貴方を思い出して私も頑張れたよ、そんな風に伝えたくて
色づき始めた木の葉が道の両側を彩っている、見慣れた門をくぐりガラス戸を開けると、背中を丸めて歩く相澤くんが驚いた様子で私を見つめた
「あ、おはよう、」
「・・どうした、珍しいな」
繁忙期じゃないだろ、怪訝そうに細められた目、ふわふわと浮ついている心が見透かされてしまいそうで私は慌てて視線を逸らす
「き、気候もいいし、出勤日和というか・・!」
「へえ」
何一つ納得していない声色、当たり前だ、私が彼の表情を読み取ることができるように、彼もまた然りなのだから
「・・後で、行く」
面倒そうに呟いた彼の背中に私は苦笑を漏らす、きっと心配してくれているのだろう
私の悩みが恋煩いだと知ったら、心底呆れて苦言を呈するに決まっている
「ううん、大丈夫・・っ、本当に気分転換だから、」
「行く」
有無を言わせない圧力、一週間の疲労を纏い倍増しているそれに私は思わず小さく後ずさる
———まさか今日会うんですか、
浮かんだのは彼の顔、焦ったようなその声を思い出すと小さな罪悪感がちくりと胸を刺して
相澤くんが土曜出勤している事を全く考慮していなかった浅はかな自分が嫌になる
気怠げな溜息を響かせた相澤くんがゆっくりと去って行くのを、私は叱られた子供のように大人しく見送ったのだった