第10章 夜の終わりは朝の始まり
ふわりと漂うコーヒーの香り、付けていたはずの橙色のライトはいつの間にか消されている
あれから悶々と眠れない数時間を過ごした俺は、どうやら明け方限界を迎えたらしい
薄く開いた目で視線を彷徨わせると、静かにカップを口に運ぶ彼女と目が合った
「あ、起こしちゃったかな、ごめん・・!」
まだ少し寝られるよ、優しい微笑みにじわりと胸が温かくなる、朝起きて貴女が居るのはこんなに幸せなんですね、
もぞもぞと足を動かすと小さな笑い声が聞こえて、俺はゆっくりと手招きをした
「起こして、めぐさん」
近づいた彼女にだらりと両手を差し出して、甘えるように出したつもりの声は乾燥のせいかいつもより掠れている
きっと呆れた表情で声を出して笑うんだろう、そう予想していた俺は、恥ずかしそうに伏せられた赤い顔に目が覚める思いがした
「さ、わらない約束だから・・」
何ですかその可愛すぎる反応は、今日は昨日の続き、まだあの甘い時間は終わっていない、そう思うとどう頑張っても口元が上がってしまう
「貴女から触るのは、いいんですよ」
自分で言ってたじゃないですか、ほら早く、ぶらぶらと手を動かすと逃げ道を塞がれた彼女がしぶしぶ手を差し出して
そっと俺の手に触れた細い指先を当たり前のように絡めて捕まえた
「・・っ、!」
「めぐさん、今日も可愛いですね」
よく眠れましたか、言いながら手のひらに親指を滑らせる
擽るように触れると彼女が息を止める気配がした
「・・俺からも触れるルールに変えません?」
「だ、だめ・・!」
「三十秒だけ」
「ふふ、だめ」
態とらしく口を尖らせると力が抜けたように彼女が笑って、俺はほっと安堵の息を吐く
いつものように笑っていて欲しい、真っ直ぐな貴女が自己嫌悪に陥るくらいなら、俺はいくらでも道化を演じられる
実際はそんな悠長な事言ってられる状況じゃ無いですけどね、しゃーないです、野菜を切る彼女の姿を見つめながら、もうすぐ終わってしまうこの幸せな時間を噛み締めた
「何時にお家出るんだっけ?」
朝ごはん食べられそうかな?、トースターから香るパンの匂い、当たり前のように置かれた二つのコーヒー、そんな風に聞かれたら勘違いしてしまいそうになる