第10章 夜の終わりは朝の始まり
どれくらいの時間が経っただろうか、到底眠れる筈のない俺は目を開いて壁の時計を確認する
狭いソファで寝返りを打つとふわりと香ったブランケット、残り香だけでも感じたくて俺は思い切り顔を埋めた
———私から触るのは、いいの
少し前まで赤い顔を顰めていたくせに、急にあんな顔するんだから、
冷めやらない熱がまだ全身に残る、逆上せたように火照る顔を冷ましたくて服で汗を拭った
彼女が部屋に入ってから、物音はひとつも聞こえない
ちゃんと眠れたならよかったです、俺は全然寝れる気しませんけど、喜ばしいはずの安心感、自身に向けられるそれが今は酷く恨めしい
「・・・鍵掛かっとるけん、入れん」
全くもって冗談ではなかった夜這いの可能性、自身への呆れた溜息が小さく響いて、俺は明かりを遮るように目を覆った
突然カチャリと耳に届いたその音、差し込んだ一筋の明かりに心臓が爆音を立て始める
トイレ?それとも水?、金縛りにあったように動けなくなった体をソファに沈めたまま目を閉じて
リビングの扉が開かれると真っ直ぐに此方に近づいた足音、死んだフリは経験済ですけど寝てるフリは初めてです、そんな事を考えながら俺は全神経を呼吸に集中させた
「眠れてて、よかった」
優しい声が思っていたよりもずっと近くで響いて、自身の額に汗が滲む
どうやら様子を見に来ただけらしい、夜間巡回ってやつ、さすが教師であり医療従事者だ
頭の中に響き続ける鼓動を掻き消したくて、饒舌に言葉を浮かべ続けた
立ち去る気配が一向にしない、それどころかどんどん近付いているように思えるその距離
ふわりと香った甘い香りに、彼女が腰を下ろしたのが分かって
目を閉じていても充分に感じる見つめられている気配、この距離で薄目を開ける訳にもいかずひたすらに耐える
「・・本当はね、ここに来たこと、」
ちょっと後悔してるんだ、消え入りそうなその声が部屋の中に響いて、俺は思わず小さく息を呑んだ
「私最近ね、気になる人ができたの」
穏やかで、たまに意地悪で、一緒に居るのがとても落ち着く人、
待ってください、こんな残酷な仕打ちあります?
いくら俺が寝てるからって、恋愛相談なんて、
表情が崩れないのは幼少期からの訓練の賜物、俺が起きていることに微塵も気付いていない彼女はぽつりぽつりと小さく続けた
