第1章 この顔も欲しいです
「好きな人には、好きなもの見せてあげたくなるもんでしょう?」
疎い目良さんには分からんか、俺の言葉を遮るように肺の空気を出し切る長い溜息が聞こえる
「私向けの説明ではなく」
「手厳しいね」
「対外的な説明を」
元からこんなにも顰めっ面だっただろうか、含み笑いをしながら立ち上がった俺を目良さんが睨んだ
「・・まだ話は終わっていませんよ」
「俺の方は終わりました」
軽い足取りで椅子の背に触れるとそれをくるりと回して、しぶしぶ立ち上がったその背中に両手を添える
「肩凝りがひどいなぁ、ちゃんと休まなくちゃ」
お詫びのしるしにと手元の缶コーヒーをその手に握らせる
甘いのは飲みません、そんな呟きには聞こえないふりをして
今夜もまともに眠れないであろう彼の背中を、同情と信頼を込めて優しく押した
「対外的な、」
「そこを考えるのが、貴方の仕事だ」
頼みましたよ、ドアを閉める寸前に見えたのは殆呆れ果てた表情
目良さんのその顔昔から好きですよ、そんな気持ちを精一杯視線に乗せて、俺はにっこりと微笑みながら重いドアを閉めた
「疎いなぁ」
小さく呟きながら手元の発信履歴を遡る
たった数分足らずの会話、しかし今までで最長記録のそれに思いを馳せた
「来月の会議なんですけど」
「うん?」
「ジーニストさん呼んどいたんで」
電話越しでも彼女が息を呑む気配がする、上がりそうになる口元を何とか制して、努めて冷静な声を出した
「・・ベストジーニスト?」
「ええ」
「本物の?」
「もちろん」
会いたがってませんでした?、優しく尋ねると彼女が書類か何かをばさばさと落とす音がした
「で、でも私、担当じゃないから、」
「そうなんですよ」
渉外担当は誰でしたっけ、困ったふりをして響かせた音が必死な彼女の声に掻き消されていく
「相澤くん、だ・・!」
「ですね」
イレイザーを差し置いて、彼女を公安側から指名するには相応の理由が必要になる
予想よりもずっと簡単な運びに笑い声が出そうになるのを我慢しながら、俺はあえて何気ない調子で続けた
「イレイザーさえ承諾してくれれば」
公安側には俺から話しておきますよ、耳元で響く彼女の相槌があまりにも一生懸命で愛おしい
「あ、ありがとうホークス・・!」
「いえいえ、お安いご用です」